産業医との情報共有はどこまでできる?
人事担当者が知っておくべきこと・知るべきではないこと
2026.10.28
「従業員の体調について、どこまで産業医へ伝えてよいの?」「産業医との面談内容を、人事担当者が確認しても問題ない?」と迷うことはありませんか。
従業員の健康を守るには、人事担当者と産業医の情報共有が必要です。しかし、病名や治療内容などの詳しい健康情報まで、人事担当者が把握する必要があるとは限りません。
基本となるのは、健康情報を必要な目的に限って取り扱い、就業上の配慮に必要な範囲で共有することです。
この記事では、人事担当者から産業医へ伝えるべき情報、産業医から人事担当者へ共有される情報、人事担当者が知る必要のない情報について解説します。
産業医との情報共有が必要な理由
産業医は、医学的な専門知識をもとに、従業員の健康管理や職場環境の改善について事業者へ助言する医師です。健康診断や面接指導の結果だけでなく、従業員の仕事内容や勤務状況、職場環境などを踏まえて、就業上の措置が必要かを判断します。例えば、従業員に持病があると分かっても、産業医が具体的な仕事内容や労働時間を把握していなければ、業務を続けられるか、どのような配慮が必要かを判断できません。
一方、人事担当者や上司は、医学的な情報だけを見ても、その従業員が安全に働ける状態かを判断することは難しいでしょう。そのため、人事担当者は産業医へ勤務状況や仕事内容を伝え、産業医からは、就業上必要な配慮について意見を受け取ります。
ただし、情報共有の目的は、従業員の健康確保や安全な就業につなげることです。健康情報を人事評価や選考など、別の目的に利用してはいけません。
特に、健康診断結果や病歴、診断名、治療内容、ストレスチェック結果などは、個人情報の中でも特に慎重な取扱いが必要な「要配慮個人情報」に該当するものが多くあります。健康に関する情報が必要以上に社内へ広がると、従業員が不利益な取扱いを心配し、産業医への相談をためらう可能性があります。
企業は、次の事項をあらかじめ決めておく必要があります。
- 健康情報を取り扱う目的
- 収集する情報の範囲
- 情報を取り扱う担当者
- 共有する相手と範囲
- 情報の保管方法
- 保存期間
- 情報を削除する方法
- 本人へ説明する内容
健康情報を取り扱うルールは、衛生委員会などでの検討を踏まえ、社内規程として整備することが望まれます。
人事担当者から産業医へ共有する情報
産業医が適切な判断をするには、従業員本人の健康情報だけでなく、勤務状況や仕事内容、職場で確認された変化などの情報も必要です。
人事担当者から産業医へ共有する主な情報を確認しましょう。
健康診断と面接指導に関する情報
事業者は、健康診断の結果、異常所見があった従業員について、就業上の措置が必要か医師の意見を聴かなければなりません。産業医へは、健康診断結果に加えて、意見を述べるために必要となる仕事内容や勤務状況などを提供します。
また、長時間労働者や高ストレス者への面接指導を行う場合も、労働時間や業務内容などの情報が必要です。
健康診断や面接指導に関して共有する情報には、次のようなものがあります。
- 健康診断結果
- 過去の健康診断結果
- 再検査や精密検査の受診状況
- 長時間労働の状況
- 休日労働や深夜勤務の状況
- ストレスチェック後の面接指導の申出
- これまでに行った就業上の措置
- 現在の勤務状況
法令に基づいて事業者が取り扱う健康診断結果などは、法令上必要な範囲で産業医と共有します。
一方、ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なく事業者へ提供することはできません。ストレスチェックを実施しただけで、人事担当者が個人の結果を閲覧できるわけではない点に注意が必要です。
仕事内容や職場環境に関する情報
産業医が就業上の配慮を検討するには、従業員が実際にどのような環境で働いているかを把握する必要があります。
次のような情報を共有しましょう。
- 担当している業務の内容
- 勤務時間や勤務形態
- 出張や外勤の頻度
- 夜勤や交替勤務の有無
- 重量物の取扱いや高所作業の有無
- 自動車の運転を伴う業務か
- 危険物や有害物を取り扱う業務か
- 顧客対応や感情労働の状況
- 職場の人員配置
- 繁忙期や業務量の変化
- 在宅勤務の状況
- 職場で利用できる支援制度
例えば、同じ病気であっても、デスクワークを行う場合と、夜勤や自動車運転を伴う場合では、必要となる配慮が異なります。業務内容を伝えるときは、「営業職」「事務職」といった職種名だけでなく、具体的な作業や勤務条件も説明することが大切です。
職場で確認された変化
上司や人事担当者が従業員の様子に変化を感じた場合は、事実と推測を分けて産業医へ共有します。
共有する情報の例は次のとおりです。
- 遅刻や欠勤が増えた
- 勤務中に居眠りすることが増えた
- 同じミスを繰り返すようになった
- 以前より会話が減った
- 急に涙を流すことがあった
- 強い口調で話すことが増えた
- 体調不良を理由に早退することが増えた
- 本人から仕事を続けることがつらいと相談された
- 事故や重大なミスにつながる可能性がある
「うつ病だと思う」「仕事への意欲がない」などと決めつけるのではなく、「今月は3回遅刻した」「会議中に発言がなく、呼びかけへの反応が遅かった」など、実際に確認できた事実を伝えます。
休職や復職に関する情報
休職や職場復帰の支援を行う場合は、就業規則や職場復帰支援制度、本人が復帰後に担当する予定の業務などを産業医へ共有します。
主な情報は次のとおりです。
- 休職に至った経緯
- 休職前の仕事内容と勤務状況
- 休職期間
- 就業規則上の休職期限
- 復職後に予定している業務
- 短時間勤務や残業制限の可否
- 試し出勤や段階的な復職制度の有無
- 職場で受け入れられる配慮の範囲
- 主治医の診断書に記載された内容
復職可能かを判断する際は、主治医の診断書だけでなく、実際の仕事内容を踏まえた産業医の意見を確認することが重要です。
産業医から人事担当者へ共有される情報
産業医との面談内容が、すべて人事担当者へ共有されるわけではありません。
産業医から人事担当者へ共有されるのは、原則として、従業員の健康を守り、安全に働けるようにするために必要な情報です。
就業できるかについての意見
健康診断や面接、診断書、仕事内容などを踏まえ、産業医から次のような意見が示されます。
- 通常勤務が可能
- 一定の条件があれば勤務可能
- 一時的に就業を制限する必要がある
- 休業が必要
- 復職が可能
- 現時点では復職が難しい
産業医の意見は、会社が就業上の措置を判断するための医学的な助言です。最終的な措置は、産業医の意見や本人の希望、業務上の事情などを踏まえて事業者が決定します。
ただし、会社の都合だけで産業医の意見を軽視すると、従業員の健康状態が悪化する可能性があります。産業医の意見を採用しない場合は、その理由や代替措置を十分に検討する必要があります。
必要な就業上の配慮
産業医から人事担当者へは、病名の詳細ではなく、働く上で必要な配慮が伝えられます。
例えば、次のような内容です。
- 時間外労働を月○時間以内にする
- 夜勤や交替勤務を避ける
- 出張を制限する
- 自動車の運転業務を外す
- 高所作業や危険作業を避ける
- 重量物を扱う作業を制限する
- 短時間勤務から復職する
- 定期的に休憩を取れるようにする
- 通院に必要な時間を確保する
- 一定期間ごとに産業医面談を行う
- ○か月後に就業制限を見直す
人事担当者や上司が知るべきなのは、「何の病気か」よりも、「どの業務をどの程度制限する必要があるか」です。
必要な配慮を具体的に示してもらうことで、職場側も対応を検討しやすくなります。
職場環境の改善に関する意見
産業医は、個人への配慮だけでなく、職場全体の健康管理について事業者へ意見を述べることがあります。
例えば、次のような内容です。
- 長時間労働が続く部署の業務量を見直す
- 夜勤の回数や勤務間隔を改善する
- 休憩場所を確保する
- 作業環境を改善する
- 管理職へラインケア研修を行う
- ハラスメント相談体制を整える
- 健康診断後の受診勧奨を強化する
- メンタルヘルス相談窓口を周知する
職場全体に共通する課題については、個人を特定できない形で情報を共有し、職場環境の改善につなげます。
緊急時に必要な情報
従業員本人や周囲の人の生命・身体に重大な危険がある場合は、通常よりも広い範囲で情報共有が必要になることがあります。例えば、自傷他害のおそれが差し迫っている、意識を失う可能性があり危険作業を継続できないといった場合です。
その場合でも、共有する情報は安全確保に必要な範囲にとどめます。誰に何を伝えるかを産業医と確認し、緊急対応後は共有内容や対応の経緯を記録しておきましょう。
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もこすく相談所に問い合わせる人事担当者が知る必要のない健康情報
人事担当者が従業員の健康に配慮するために、すべての医学的情報を把握する必要はありません。産業医が把握していれば足りる情報まで社内へ共有すると、健康情報の漏えいや目的外利用につながる可能性があります。
詳しい病名や検査結果
就業上の配慮を判断するために病名を知る必要がなければ、詳細な診断名や検査数値まで共有する必要はありません。例えば、「循環器系の疾患があるため、当面は夜勤を避ける」といった情報で対応できる場合は、具体的な病名や検査結果まで人事担当者へ伝えなくても、必要な配慮を行えます。
ただし、感染症への対応や安全に関わる業務など、病名や症状を把握しなければ適切な措置を講じられない場合もあります。その場合は、本人へ利用目的や共有範囲を説明した上で、必要な情報に限って取り扱います。
治療や服薬の詳しい内容
薬の名称や服用量、治療歴、通院先、治療経過なども、原則として産業医が医学的な判断を行うための情報です。
人事担当者には、「定期的な通院が必要」「服薬の影響により運転業務を避ける必要がある」など、就業上の対応に必要な内容が共有されれば足ります。
病気に対する興味や心配だけを理由に、詳しい治療内容を尋ねることは避けましょう。
産業医面談で話した内容
産業医面談で従業員が話した内容が、そのまま人事担当者や上司へ報告されるわけではありません。
仕事上の悩みや家庭の問題、過去の病歴など、面談ではさまざまな内容が話されます。これらを本人の了承なく広く共有すると、従業員が安心して相談できなくなります。
産業医から会社へ情報を伝える必要がある場合は、原則として本人に共有する目的や内容を説明し、必要最小限の範囲に整理します。
人事担当者から産業医へ「面談で何を話したのか、すべて教えてほしい」と求めることも適切ではありません。
ストレスチェックの個人結果
ストレスチェックの個人結果は、実施者から従業員本人へ直接通知されます。本人の同意がなければ、事業者へ結果を提供することはできません。
そのため、人事担当者が次のような情報を確認することはできません。
- 個人の回答内容
- ストレスの点数
- 高ストレス者に該当するか
- 実施者から受けた助言の内容
ただし、高ストレス者が医師による面接指導を申し出た場合は、会社が面接指導を実施するため、申出があったことを把握します。
面接指導後は、会社が就業上の措置を講じられるよう、医師から必要な意見が提供されます。この場合も、共有されるのは就業上必要な情報が中心です。
業務と関係のない私生活上の情報
家族関係や経済状況、過去の経験など、面談で話された私生活上の情報も、業務上の配慮に必要がなければ人事担当者が知る必要はありません。
例えば、家庭の事情によって睡眠が不足している場合、人事担当者には「一定期間、時間外労働を制限する必要がある」という情報があれば対応できることがあります。
私生活の詳しい事情まで、上司や関係部署へ共有しないよう注意しましょう。
産業医と適切に情報共有するためのポイント
健康情報の共有範囲を担当者の判断だけに任せると、情報が不足したり、反対に必要以上に広がったりする可能性があります。
社内で統一したルールを整えましょう。
情報共有の目的を明確にする
情報を取得・共有する前に、何のために必要なのかを確認します。
目的の例は次のとおりです。
- 健康診断後の就業判定を受けるため
- 長時間労働者への面接指導を行うため
- 休職や復職を判断するため
- 治療と仕事の両立を支援するため
- 職場で必要な配慮を検討するため
- 本人や周囲の安全を確保するため
「念のため」「何かあったときに困るから」という理由だけで、幅広い健康情報を集めることは避けます。
必要最小限の情報に整理する
産業医から人事担当者へ伝える際は、詳しい医学情報を、就業上必要な情報へ置き換えてもらいます。
例えば、診断名や症状の詳細ではなく、次のような情報です。
- 現在の業務を続けられるか
- 避ける必要がある作業は何か
- 勤務時間をどの程度制限するか
- 制限が必要な期間はどのくらいか
- いつ再評価するか
上司には具体的な配慮事項だけを伝え、健康情報を管理する担当者には産業医の意見書を共有するなど、役割に応じて情報量を変える方法もあります。
本人へ共有内容を説明する
本人の同意が必要な情報を共有する場合は、次の事項を説明します。
- 共有する目的
- 共有する情報
- 共有する相手
- 情報をどのように利用するか
- 同意しない場合に考えられる影響
同意書へ署名してもらうだけでなく、本人が内容を理解し、納得して選択できるようにすることが重要です。
また、産業医から会社へどのような意見が伝えられるのか、可能な範囲で本人にも確認してもらうと、認識のずれを防ぎやすくなります。
閲覧できる人を限定する
健康情報は、人事部門の全員が閲覧できる状態にするのではなく、業務上必要な担当者だけに限定します。紙の記録は施錠できる場所に保管し、電子データにはアクセス制限やパスワードを設定しましょう。
上司へ情報を伝える場合も、就業上の配慮に必要な内容だけにとどめます。上司から同僚へ説明する必要がある場合は、本人の意向も確認しながら、業務分担に必要な内容へ置き換えます。
情報共有の記録を残す
誰が、いつ、どの情報を、何の目的で、誰に共有したのかを記録します。
口頭や電話で伝えた場合も、共有した内容を記録しておくと、後から確認できます。
産業医の意見書や面談記録など、文書ごとに保存期間や保管場所を定め、不要になった情報はルールに沿って適切に削除・廃棄しましょう。
産業医との情報共有は就業上必要な範囲にとどめよう
産業医が適切な判断をするには、人事担当者から仕事内容や労働時間、職場で確認された変化などを伝える必要があります。
一方、産業医から人事担当者へ共有される情報は、就業できるか、どのような配慮が必要かといった内容が中心です。詳しい病名や検査結果、服薬内容、面談で話した私生活上の事情まで、人事担当者が把握する必要があるとは限りません。
重要なのは、健康情報を「知るか、知らないか」だけで考えるのではなく、従業員の健康を守るために必要な情報か、誰が知る必要があるかを整理することです。
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参考
厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために」
厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」
厚生労働省「面接指導を実施する医師の方」
この記事の要点
- 人事担当者から産業医へは、勤務状況や仕事内容、職場で確認された変化などを共有する。
- 産業医から人事担当者へは、就業できるか、どのような配慮が必要かなど、就業上必要な情報を共有する。
- 詳しい病名や治療内容、面談で話した内容などは、人事担当者が知る必要がない場合も多い。
- ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なく事業者へ提供することはできない。
- 情報の利用目的や閲覧できる人を決め、必要最小限の範囲で取り扱うことが重要。
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