企業のハラスメント対策とは?人事・総務担当者が押さえたい基本のポイント
2026.07.07
「ハラスメント対策を進めたいが、何から始めればよいのか分からない」「法律で対策が義務化されたと聞くものの、自社の取り組みが十分なのか不安」と感じている人事・総務担当者も多いのではないでしょうか。
ハラスメント対策は、相談窓口を設置すれば終わるものではありません。基本方針の策定や相談体制の整備、教育、再発防止まで含めた継続的な取り組みが求められます。
一方で、「ハラスメントとは何か」「なぜ対策が必要なのか」といった基本的な考え方が社内で十分に共有されていないと、制度があっても十分に機能しないことがあります。
この記事では、ハラスメント対策の基本的な考え方や企業に求められる役割、職場づくりのポイントについて、人事・総務担当者向けに分かりやすく解説します。
目次
ハラスメント対策とは
ハラスメント対策とは、職場で起こるさまざまなハラスメントを未然に防ぎ、万が一発生した場合にも適切に対応できる体制を整える取り組みです。
そもそも「ハラスメント」とは、相手に精神的・身体的な苦痛を与えたり、人格や尊厳を傷つけたりする言動を指します。職場では、その言動によって働きにくい環境が生まれたり、就業環境が害されたりすることが問題になります。
ただし、「相手が嫌だと感じたら全てハラスメントになる」というわけではありません。
例えば、業務上必要な指導や注意は、適切な範囲であればハラスメントには当たりません。一方で、指導という名目で人格を否定する発言をしたり、必要以上に大勢の前で叱責したりする行為は、ハラスメントに該当する可能性があります。
大切なのは、業務上の必要性や相当性があるか、相手の人格を傷つけるような言動になっていないかという視点で考えることです。
企業では、こうしたハラスメント行為を防ぐため、ハラスメント対策が求められていますが、これは「問題を起こした人を処分するため」の制度ではありません。
本来の目的は、誰もが安心して働ける職場を維持し、問題が起きた場合にも適切に対応できる環境を整えることにあります。そのためには、問題が起きてから対応するだけではなく、日頃からハラスメントを防止するための職場づくりが欠かせません。
職場で問題となる主なハラスメント
職場ではさまざまな種類のハラスメントが問題となります。
パワーハラスメント
職場における優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えて言動を行い、就業環境を害するものです。暴言や過度な叱責だけでなく、無視や仕事を与えない行為、達成困難なノルマを課すことなども該当する場合があります。
また、パワーハラスメントは、上司から部下への言動だけを指すものではありません。法律上は「職場における優越的な関係を背景とした言動」が対象であり、状況によっては部下から上司、同僚同士であってもパワーハラスメントに該当する場合があります。重要なのは役職ではなく、職場における力関係や言動の内容です。
セクシュアルハラスメント
性的な言動によって相手に不利益を与えたり、就業環境を害したりする行為です。身体への接触だけではなく、性的な発言や容姿に関する不用意なコメント、性的な話題を繰り返すことなども問題となります。
妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメント
妊娠や出産、育児休業、介護休業などを理由として、不利益な扱いを受けたり、制度利用を妨げられたりする行為です。近年では、男性の育児休業取得が増えたことに伴い、育児休業を取得しようとする男性への嫌がらせも問題視されています。
カスタマーハラスメント
顧客や取引先などからの著しい迷惑行為を指します。2026年10月からは、このカスタマーハラスメント対策も企業の「雇用管理上の措置義務」として法律で定められます。これにより、企業には基本方針の策定や相談体制の整備、被害を受けた従業員への適切な対応など、組織的な対策が求められます。
他にも、アルコールハラスメントやSOGIハラスメント(性的指向や性自認に関連した不当な扱い・嫌がらせ行為)など、さまざまなハラスメントがあります。
名称は異なっても共通しているのは、「相手の尊厳を傷つけ、安心して働ける就業環境を侵害する」という点です。そのため、名称だけにとらわれず、職場でどのような言動が問題になり得るのかを理解しておくことが重要です。
なぜ企業でハラスメントは起こるのか
「自社にはハラスメントをするような人はいない」と考える企業もあります。しかし、実際には、悪意を持って行われるケースばかりではありません。
職場でハラスメントが起こる背景には、主に次の3つの要因があります。
立場や力関係の違い
職場では、管理職と部下、先輩と後輩、正社員と非正規社員など、さまざまな立場の違いがあります。
こうした関係では、相手が「嫌だ」「やめてほしい」と言いにくい状況が生まれやすくなります。また、役職だけでなく、専門知識や経験、人間関係などを背景に、一方が優位な立場になることもあります。
認識や価値観の違い
「昔はこれくらい普通だった」「指導のつもりだった」「相手のためを思って言った」といった認識の違いから、ハラスメントにつながるケースも少なくありません。
近年は働き方や価値観が多様化しており、自分にとっては何気ない言動でも、相手にとっては就業環境を害する言動となる場合があります。
職場環境や組織風土
ハラスメントは、個人の問題だけで起こるものではありません。長時間労働や慢性的な人手不足、強い成果主義、相談しづらい雰囲気など、職場環境や組織風土が影響することもあります。問題があっても指摘しづらい環境では、ハラスメントが表面化しにくく、深刻化するおそれがあります。
もちろん、「相手が嫌だと感じたから」という理由だけでハラスメントになるわけではありません。しかし、「悪意はなかった」「そのつもりはなかった」というだけで問題がなくなるわけでもありません。
だからこそ、企業には個人の意識に任せるのではなく、共通のルールや判断基準を整え、誰もが安心して働ける職場環境をつくることが求められます。
ハラスメントが企業に与える影響
ハラスメントは、当事者同士だけの問題ではありません。一つのハラスメントが職場全体へ影響を及ぼし、企業経営にもさまざまなリスクをもたらします。
そのため、ハラスメント対策は「問題が起きたら対応する」だけではなく、企業のリスクマネジメントの一つとして考えることが重要です。
従業員の心身に影響を及ぼす
ハラスメントによって最も大きな影響を受けるのは、被害を受けた従業員です。精神的なストレスが続くことで、不眠や食欲不振、不安感などの心身の不調につながることがあります。症状が長引けば、休職や退職を選択せざるを得ないケースも少なくありません。
また、ハラスメントは直接被害を受けた人だけの問題ではありません。
同じ職場でハラスメントを目撃した従業員も、「自分も同じような扱いを受けるのではないか」「相談しても改善されないのではないか」と不安を感じることがあります。
安心して働ける環境が失われることで、職場全体の心理的安全性が低下し、コミュニケーションにも悪影響を及ぼす可能性があります。
組織全体の生産性が低下する
ハラスメントがある職場では、本来の業務以外のことに多くの時間や労力が費やされます。
人事担当者は相談対応や調査、関係者との調整に追われ、管理職も組織運営に多くの時間を割かなければなりません。従業員同士の信頼関係が損なわれれば、チームワークの低下や情報共有不足にもつながります。
また、「余計なことを言わないようにしよう」「目立たないようにしよう」と萎縮する職場では、意見交換や改善提案も生まれにくくなります。こうした状態が続けば、生産性や組織力の低下につながる可能性があります。
人材の確保や定着にも影響する
近年、多くの企業が人材不足という課題を抱えています。その中で、働きやすい職場づくりは人材確保の重要な要素となっています。
ハラスメントが放置されている職場では、離職率が高くなりやすいだけでなく、採用活動にも影響する可能性があります。
現在は口コミサイトやSNSなどを通じて企業の評判が広まりやすく、職場環境を重視して企業を選ぶ求職者も増えています。
ハラスメント対策は従業員を守るためだけではなく、「働き続けたい会社」と思ってもらうための取り組みでもあります。
法的・社会的リスクにつながる
企業には、ハラスメント防止措置を講じることが求められています。相談があったにもかかわらず適切な対応を行わなかった場合には、企業としての責任が問われる可能性があります。
また、訴訟や労働紛争に発展すれば、対応に多くの時間や費用が必要になるだけではありません。報道やインターネットなどを通じて企業イメージが低下するリスクもあります。
企業が受ける影響は、目の前のトラブルだけではありません。
従業員、求職者、取引先など、さまざまな関係者からの信頼にも関わる問題であることを理解しておく必要があります。
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もこすく相談所に問い合わせる企業にはハラスメント防止措置が義務付けられている
ハラスメント対策は、企業が自主的に取り組むだけのものではありません。現在は、職場におけるハラスメントの防止について、複数の法律で企業に義務や責務が定められています。
主な法律と企業に求められる内容は、次のとおりです。
| 法律 | 主な内容 |
|---|---|
| 労働施策総合推進法 |
・パワーハラスメント防止措置の義務化(2022年4月~) ・カスタマーハラスメント防止措置の義務化(2026年10月~) |
| 男女雇用機会均等法 | セクシュアルハラスメント防止措置の義務化 |
| 育児・介護休業法 | 妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメント防止措置の義務化 |
| 労働契約法 | 労働者が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」 |
| 労働安全衛生法 | 労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進するための措置 |
※労働安全衛生法はハラスメントを直接規制する法律ではありませんが、労働者の心身の健康を守る職場環境づくりを企業に求めており、ハラスメント対策とも密接に関係しています。
ハラスメント防止に関する法令では、ハラスメントが発生してから対応するのではなく、企業があらかじめ防止措置を講じることを求めています。
具体的には、企業には次のような防止措置が求められています。
- ハラスメント防止方針を策定し、従業員へ周知すること
- 従業員が相談できる窓口を整備すること
- 相談があった際に適切に対応できる体制を整えること
- 事実関係を確認し、必要な措置や再発防止策を講じること
- 相談者や調査協力者のプライバシーを保護すること
- 相談したことなどを理由とする不利益な取扱いを行わないこと
これらは、それぞれを個別に実施すればよいものではありません。基本方針の策定から相談対応、再発防止までを一連の仕組みとして運用することで、初めて実効性のあるハラスメント対策となります。
次章では、法律で求められる防止措置を踏まえ、企業としてどのような体制を整備すべきかを解説します。
ハラスメント対策で企業が整備すべき基本体制
ハラスメント対策を機能させるためには、企業として一定の体制を整備しておく必要があります。
ここでは、企業が押さえておきたい基本的な考え方を紹介します。
1.ハラスメント防止方針を明確にする
ハラスメント対策では、「会社としてハラスメントを許さない」という姿勢を明確に示すことが出発点となります。
基本方針を策定することで、従業員や管理職が「どのような言動が問題となるのか」「相談した場合に会社はどのように対応するのか」を共通認識として持ちやすくなります。
また、方針は作成するだけでは意味がありません。就業規則や社内ポータル、研修などを通じて継続的に周知し、新入社員を含めて全従業員へ浸透させることが重要です。
2.相談しやすい環境を整える
ハラスメントは、相談されなければ企業が把握できないことも少なくありません。そのため、相談窓口を設置するだけでなく、「安心して相談できる環境」を整えることが重要です。
相談したことや調査への協力などで不利益を受けないことや、プライバシーが守られることを従業員へ周知し、相談しやすい雰囲気をつくる必要があります。
また、相談方法を一つに限定せず、対面やメール、外部相談窓口など複数の選択肢を用意することも有効です。
3.適切に対応できる体制を整える
ハラスメント相談は、担当者の経験や判断だけに任せるべきではありません。
相談を受けてから対応方法を考えるのではなく、誰が対応するのか、どのような流れで事実確認を行うのか、関係部署とどのように連携するのかなど、あらかじめ基本的な対応体制を整理しておくことが重要です。
あらかじめ対応の流れを決めておくことで、担当者による対応のばらつきを防ぎ、公平性や迅速性の確保にもつながります。
4.教育と職場改善を継続する
ハラスメント対策は、一度研修を実施しただけでは定着しません。
管理職には適切な指導方法や相談対応について、一般従業員にはハラスメントの基礎知識や相談窓口について、それぞれ継続的に教育することが重要です。
また、相談内容やストレスチェックの集団分析、従業員アンケートなども活用しながら職場環境を確認し、必要に応じて改善を行うことで、ハラスメントの予防にもつながります。
基本方針のもとで相談しやすい環境を整え、相談があれば適切に対応し、その結果を教育や職場改善へ生かしていく。この一連の取り組みを継続的に繰り返すことが、実効性のあるハラスメント対策につながります。
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もこすく相談所に問い合わせる企業でハラスメント対策を進める際の注意点
ハラスメント対策は、制度を整備するだけでは十分ではありません。実際の運用では、相談対応や制度の見直しなど、担当者が判断に迷いやすい場面も少なくありません。
ここでは、ハラスメント対策を進める際に押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
相談件数だけで職場の状況を判断しない
ハラスメント対策では、「相談件数が少ないから問題はない」「相談件数が増えたから職場環境が悪化している」と考えてしまうことがあります。しかし、相談件数だけで職場の状況を判断することはできません。
例えば、相談件数が少ない背景には、本当にハラスメントが少ないケースだけでなく、「相談しても改善されない」「相談したことが周囲に知られるかもしれない」といった不安から、相談をためらっているケースもあります。
一方で、相談件数が増えた場合も、相談窓口の周知が進み、「困ったら相談してよい」という認識が広がった結果として、これまで表面化していなかった相談が寄せられるようになった可能性もあります。
重要なのは件数だけを見るのではなく、相談内容の傾向や発生部署、同様の事案が繰り返されていないかなどを分析し、職場環境の改善につなげることです。
相談対応を担当者だけで抱え込まない
ハラスメント相談は、内容によっては事実関係の確認や関係者への配慮、法的な判断などが必要になることがあります。
そのため、人事・総務担当者が一人で対応を抱え込むことは避けましょう。
必要に応じて経営層や管理職、産業医、保健師、弁護士などの専門家と連携し、複数の視点から対応を検討することが重要です。また、担当者が孤立しない体制を整えておくことで、公平性の確保や対応品質の向上にもつながります。
制度を整備して終わりにしない
ハラスメント対策は、一度制度を整備すれば終わるものではありません。
基本方針や相談窓口を設置していても、従業員に十分周知されていなければ活用されず、形だけの制度になってしまいます。
また、組織体制や働き方は変化するため、制度も定期的に見直すことが重要です。相談内容の傾向や従業員アンケート、ストレスチェックの集団分析なども活用しながら、自社の課題に応じて改善を続けていくことが、実効性のあるハラスメント対策につながります。
まとめ
ハラスメント対策は、法律への対応だけでなく、従業員が安心して働ける職場づくりや企業の持続的な成長につながる重要な取り組みです。一度体制を整えれば終わりというものではなく、組織体制や働き方、社会情勢に合わせて制度や運用も見直していく必要があります。
ただし、現実には社内だけで対応が難しい場合もあります。その時は、外部相談窓口を活用することも選択肢の一つです。第三者へ相談できる環境を用意することで、従業員が安心して相談しやすくなるだけでなく、人事担当者の負担軽減にもつながります。
ハラスメント対策は、「問題が起きたら対応する」ためだけのものではありません。日頃から職場の状態を把握し、従業員が安心して働ける環境を維持するための継続的な取り組みとして考えることが重要です。
ハラスメント対策は、従業員を守るだけでなく、企業の信頼や組織力を守るための重要な経営課題です。
もこすく相談所では、ハラスメントに対応した内部通報制度や、医療職による外部相談窓口などのサービスも提供しております。「ハラスメント対策を何からすればよいかわからない」という企業のご担当者様は、ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の要点
- ハラスメント対策とは、ハラスメントの予防から相談対応、再発防止までを含めた継続的な取り組みである。
- ハラスメントは従業員だけでなく、職場環境や生産性、企業の信頼にも大きな影響を及ぼす。
- 企業には、防止方針の策定や相談体制の整備など、ハラスメント防止措置を講じることが求められている。
- ハラスメント対策は制度を整備するだけでは十分ではなく、運用状況を見直しながら継続的に改善することが重要である。
- ストレスチェックや外部相談窓口なども活用しながら、組織全体で継続的に職場環境を見直すことが大切である。
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