第3回「健康に働くために『頑張り続けない』という選択肢を」
2026.05.20
「健康に働くためには、しっかり頑張ることが大事」
そんなふうに思っている方は、きっと少なくないと思います。
仕事に真面目で、周囲に気を配るタイプの方ほど、そう感じやすいのかもしれません。
私自身が経験した“頑張りすぎ”の代償
私自身、医療職として健康相談を受ける立場でありながら、子育てと仕事を両立する中で、「頑張り続けないと」と気負っていた時期がありました。
特に、その傾向が強かったのは育休明けの復帰時期です。
復帰して早々、子どもの体調不良で仕事は休みがち。
「迷惑をかけないようにしないと…」と思いながら、
「早く仕事の感覚を取り戻さなきゃ」
「せめて、出勤できたときは成果を残さないと」
そんな気持ちで、仕事に精いっぱい向き合っていました。
仕事が終わると、保育園のお迎え、夕食の準備、子どもに食事をあげて、お風呂に入れて、寝かしつけ。
帰宅してからも、バタバタの日々が続きます。
慣れない保育園で、子どもも毎日ぐずぐず。
帰宅後は余裕がなく、すぐに寝かしつけてしまい、「今日は絵本の読み聞かせ、できなかったな…」と後から気づく。
散らかったリビングを見渡して、
「……あれ、なんで私、働いているんだっけ」
ふと、そんな思いが浮かび、涙が出ました。
体調が悪かったわけでも、明確なトラブルがあったわけでもありません。
ただ、「ずっと気を張り続けていた」——それだけだったのだと思います。
そのとき初めて、頑張り続けること自体が、健康を削ることもあるのだと実感しました。
それからは、同僚に話を聞いてもらったり、「こういう日もあるよね」と、頑張りすぎない日があってもいいと自分に許可を出したり。
少しずつ、気持ちが落ち着いていったように感じます。
無理をし続けないことは“甘え”ではなく“必須スキル”
相談に来られる方の中にも、よく似た状態の方がいます。
「忙しいだけで、病気じゃないので」
「みんな同じように働いていますし」
そう前置きしてから、眠れないこと、ミスが増えたこと、気持ちが晴れないことを話されます。
その多くは、「頑張れなくなった」のではなく、「頑張り続けてきた」結果なのだと感じます。
相談の場で少しずつ言葉にしていくうちに、
「休んでいいんでしょうか」
「このまま続けて大丈夫でしょうか」
と、ようやく自分の状態に目を向けられるようになるのです。
健康に働いている人は、決して常に全力の人ではありません。
調子が悪い日はスピードを落とし、余裕がないときは誰かに頼る。
無理をし続けない選択をしています。
それは甘えではなく、長く働き続けるための技術だと思います。
一緒に気持ちの棚卸しをしてみませんか?
頑張れなくなってから立ち止まるよりも、頑張りすぎていることに早めに気づくこと。
そして、一人で抱え込まず、言葉にしてみること。
それもまた、「健康に働くための大切な行動」のひとつです。
もし今、少しでも「しんどいな」と感じているなら、頑張りが足りないのではありません。
もしかすると、十分すぎるほど頑張ってきただけなのかもしれません。
相談員として、そんな気持ちの棚卸しを、一緒にできたら嬉しいなと思っています。
保健師さとみのプロフィール
担当連載「日々のすきまに、保健師のつぶやき」
行政保健師を経て、現在は産業保健師、もこすく相談員として働く。 誰かの体や心がちょっと疲れたとき、「話してよかった」と思ってもらえるような存在を目指して、日々社員の声に耳を傾けている。 やわらかく、話しかけやすい雰囲気が魅力のもこすく相談員。 自分自身も子育てや働き方に迷いながら過ごすひとりの社会人として、 等身大の視点でコラムを届けていく。
