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長時間労働は改善できる? 長時間労働の基準や原因、具体的な対策について解説

2025.04.28

長時間労働は改善できる? 長時間労働の基準や原因、具体的な対策について解説

企業の人事・総務担当の皆さま
突然ですが、こんなお悩みはありませんか?

  • 現場から人手不足の声が上がっている
  • 労働時間などを理由に辞めてしまう従業員が多い
  • 健康を害して休職に追い込まれてしまう従業員が目立つ

このようなお悩みの背景には、長時間労働の問題が隠れている可能性があります。人手不足や離職率の高さに頭を悩ませる企業にとって、長時間労働の削減は喫緊の課題です。長時間労働は従業員の健康リスクを高めるだけでなく、企業の競争力やイメージにまで悪影響を及ぼすからです。しかし、「何から始めれば良いのか分からない」「具体的な対策が思い浮かばない」と感じる総務・人事部門の担当者も多いのではないでしょうか?
そこで、長時間労働の基準や原因、常態化することで誘発される問題などを解説します。また、具体的な対策もご紹介しますので、人事・総務担当の皆さまはぜひご覧ください。

長時間労働とは

日本では、「長時間労働」という言葉が頻繁に使われていますが、具体的な基準があるわけではありません。一般的には法定労働時間を超えて働くこと、つまり時間外労働をすることを指します。法定労働時間や時間外労働には、次のような基準があります。

法定労働時間

日本では、1日8時間以内、1週間あたり40時間以内とされています。

時間外労働時間

「法定労働時間」を超えて働くことを言います。つまり、1日8時間、1週間当たり40時間を超えて働いた場合は、時間外労働にあたります。

基本的に、企業側は法定労働時間を守ることが求められますが、業種や業務内容によっては従業員に時間外労働をしてもらう必要が出てくることがあります。そのような場合、「36協定(サブロク協定)」という労使間の合意と労働基準監督署への届け出があれば、時間外労働を求めることが可能です。

長時間労働にまつわる法的ルール

36協定を結べば上限なく働かせてよい、というわけではありません。36協定には、「月45時間、年360時間」という時間外労働の上限があり、それを守らない場合には罰則が科せられます。ただし、臨時の事情がある可能性を考慮して、36協定には「特別条項付き」と呼ばれる例外規定も設けられています。これは、労使が合意する場合でも「年間720時間、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)」までは時間外労働が認められる、というものです。さらに、月45時間を超えることができるのは、年間で6ヶ月までという決まりもあります。もし違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科せられることがあります。
長時間労働にはこのような規定がありますが、基本的に時間外労働や休日労働は最小限に抑えることが基本とされています。ところが、実際には長時間労働を強いられている人はたくさんいます。昨今、働き方改革の影響で、以前に比べて労働環境や働く時間に対する意識は変化しつつありますが、それでも、長時間労働によって健康を害したり命を失ってしまった方のニュースを耳にする機会は、未だに後を絶ちません。こうしたニュースが示しているように、長時間労働は働く人の心と身体を蝕む問題です。また、従業員個人だけでなく、会社全体にとっても大きな損失につながるため、長時間労働が常態化している企業は、いち早く改善に向けて取り組む必要があります。

長時間労働のリスク

長時間労働は、次のように企業と従業員双方に深刻な影響を与えます。

従業員へ影響

健康リスクが高まる

もっとも大きなリスクは、従業員の健康が損なわれることです。長時間労働は心身の様々な面に影響を及ぼします。脳や心臓疾患、精神障害の他、過労によって胃腸障害、腰痛や肩こり、睡眠障害、月経障害などが引き起こされることがあります。また、過労によって注意力が散漫になることで、怪我や事故などのリスクも高まります。厚生労働省では、こうした健康リスクは「時間外・休日労働時間が45時間以上」の場合に起こりやすくなる、としています。また、時間外労働が「1か月間に100時間」を超える場合や、「2~6か月間平均で月80時間」を超える場合には、さらに健康リスクは上昇し、過労死を引き起こす恐れがある、と考えられています。この基準は一般的に「過労死ライン」と呼ばれています。こうした長時間労働や過労による心身への影響を踏まえ、時間外・休日労働が月に80時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる場合には、医師による面接指導を行うことが義務化されています。 ちなみに、「1か月間に100時間」もしくは、「2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働の水準には至らないが、これに近い時間外労働」があることは、脳・心臓疾患の労災認定基準の一つとされています。

ワークライフバランスが崩れる

長時間労働を強いられると、家庭生活や個人の時間が削られることになります。当然ながら、ワークライフバランスは崩れ、仕事を中心とした生活をせざるを得なくなります。その結果、仕事に対するモチベーションは大きく低下し、業務効率の低下を招きます。

退職する

長時間労働が続くと、心身の健康やプライベートに大きな支障をきたします。その結果、退職という選択肢を余儀なくされることがあります。

企業への影響

生産性が低下する

長時間労働を強いられた従業員は、疲労が蓄積し、作業効率が低下します。ミスや事故などが頻発するようになり、生産性は大きく低下します。

離職率が増加する

お伝えしたように、長時間労働によって疲弊した従業員は、最終的に退職という選択肢を取らざるを得なくなります。実際に「令和5年雇用動向調査」の結果を見ても労働時間や休日等の労働条件を離職理由に挙げる人は男女ともに10%前後います。これらの人がすべて長時間労働をしていたとは限りませんが、労働時間は退職を検討する上で重要な判断材料といえるでしょう。

人間関係が悪化する

長時間労働ばかりさせられている職場では、心身ともに負担が大きくなるため、余裕がなくなります。すると、人間関係は悪化し、ハラスメントの問題なども起きやすくなります。人手不足が進むと、さらに余裕がなくなり、人間関係はさらに悪化します。

企業イメージが悪くなる

長時間労働が続くと人手不足に陥るため、常に求人情報を出さなければいけない状態になります。しかし、長時間労働を強いられるような職場には応募は集まりにくく、採用難に陥りやすくなります。

長時間労働の基準と影響のまとめ

  • 長時間労働は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働く時間外労働を指す
  • 時間外労働をしてもらうには「36協定」の締結と届出が必要である
  • 36協定の上限は「月45時間、年360時間」、特別条項付きの場合でも「年間720時間、複数月平均80時間以内、月100時間未満」が限度である
  • 長時間労働は従業員の健康や企業全体に悪影響を及ぼし、早急な改善が必要である
  • 長時間労働のリスクとして、従業員に対しては健康を害する、ワークライフバランスが崩れる、退職するといった影響が、企業にとっては、生産性の低下、離職率の上昇、人間関係や企業イメージの悪化が挙げられる

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長時間労働の主な原因

日本は世界的に見ても、長時間労働をする人の割合が多い国です。労働政策研究・研修機構による「国際労働比較2024」の調査によると、1週間に49時間以上の長時間労働をする就業者の割合は、15.3%で27国中5番目に多いという結果が出ています。
では、なぜ日本は長時間労働者が多いのでしょうか。その背景には、企業や個人、職場環境など多岐にわたる要因があります。ここでは、考えられる要因の一部をご紹介します。

人手不足

長時間労働が必要になる原因としてよく挙げられるのが、人手不足です。労働人口の減少もあり、人員が不足しているため、今いる従業員に業務が集中しがちです。

マネジメント能力不足

人手不足もさることながら、管理職のマネジメント能力が不足していることも、長時間労働を招く大きな要因となります。たとえば、管理職が業務の優先順位をつけられずに全てを急ぎ扱いで部下に回してしまう、特定の従業員にのみ負荷のかかる業務が与えてしまう、といったことは、マネジメント能力不足によって起こる問題です。また、管理職自身も多忙を極めていることで、部下を管理しきれないこともあります。

特有の企業文化と非効率な業務方法

かつてに比べると減っていると言われますが、それでも長時間労働を「美徳」とする文化が根強く残っている企業は未だにあります。無駄な朝礼や会議、形式的な業務が多い、退社時刻を過ぎてからの「雑談型会議」が常態化している、上司の退勤時間に合わせて帰る「暗黙のルール」が存在するなどの習慣は、時間外労働を増やす原因になります。また、残業するのが当たり前、という風潮が残っていると、「終わらない仕事は残業でやればよい」という考えが生まれやすくなり、業務の非効率化を招くことにもつながります。

サービス残業の習慣

時間内に終わらない仕事は、自分の責任と考える従業員も少なくありません。その結果、サービス残業を繰り返してしまうことがあります。目標やタスクの締め切りが不明確なまま業務をさせてしまうことで、こうした問題は起きやすくなります。

テレワークによるコミュニケーション不足

コロナ禍で急速に拡がったテレワークは、生産性が向上する、働き方の選択肢が増える、企業側のコスト削減(交通費や設備費など)など、様々なメリットがあります。一方で、オン・オフの切り替えが曖昧になりやすい、コミュニケーションが不足しやすく、情報共有の遅れなどによって無駄な業務が発生してしまう、というデメリットも伴います。その結果、長時間労働が増えてしまう、増えているのに誰も気が付かない、という状況に陥る可能性があります。

長時間労働の背景には、企業全体の体質や職場環境、個人の意識など、複数の要因が絡み合っています。このような要因を整理し、改善に向けた計画を立てることが、問題解決の第一歩です。

長時間労働削減に取り組むメリット

長時間労働の削減に取り組むことには、従業員個人に対してだけでなく、企業全体にもポジティブな影響をもたらします。その具体的な効果とメリットを解説します。

従業員の健康状態の改善と生産性の向上

しっかりと休息がとれるようになると、従業員の健康度が上がります。心身共に健康になることで、仕事へのモチベーションや集中力が高まるため、生産性が向上します。また、時間内に終わらせるために工夫しようとする従業員も増え、効率的に仕事が進むようになります。

従業員満足度の向上

長時間労働がなくなると、プライベートの時間も十分に確保できるようになります。ワークライフバランスがとれることで仕事へのモチベーションがアップし、従業員満足度も向上します。

離職率の低下

適切な労働時間が守られることで、従業員にとって働きやすい環境が実現しやすくなります。企業に対する信頼感や愛着も高まり、離職を希望する従業員が減少します。

人手不足の解消

働きやすい環境を整備することで、求職者からも注目が集まるようになります。離職率が低下するとともに、優秀な人材も獲得しやすくなるため、人手不足が解消します。

企業イメージの向上

従業員にとって働きやすい環境づくりに取り組む企業として認知されるようになると、顧客や取引先からの信頼感も向上し、企業イメージが改善します。

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長時間労働削減のための具体的な取り組み

では、長時間労働を減らすためには具体的にどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。ここからは、具体的な解決策を順を追って解説します。

ステップ1:現状の把握

長時間労働削減の第一歩は、現在の労働環境と問題点を正確に把握することです。中には、長時間労働の実態をつかめていない企業もあるかもしれません。次のような方法で、長時間労働の現況を把握してみましょう。

  • 勤怠管理ツールなどを活用し、従業員一人ひとりの労働時間を正確に把握する
  • 従業員の働き方に関する意識や課題を知るためにアンケート調査を実施する
  • アンケート結果をもとに管理職などにヒアリングをする

労働時間だけでなく、長時間労働が起きている部署はどこなのか、誰に負荷がかかっているのか、なども分析しましょう。また、より正確に実態を把握するためには、匿名で調査を行うことも方法の一つです。テレワークの場合は、オンラインでの勤務記録を収集する仕組みを整備することも検討してみましょう。

ステップ2:意識改革

お伝えしたように、長時間労働が増えてしまう要因には、企業風土などもあります。従業員や管理職の意識の問題がある場合には、次のようなことに取り組んでみましょう。

  • 管理職研修を実施して、マネジメント側が部下の労働時間管理や業務の優先順位付けを学ぶ
  • 他社や社内での取り組み例を共有し、長時間労働削減の意識を高める
  • ノー残業デーを導入する
  • 有給休暇の取得を促進する
  • 従業員自身も自身の労働時間を減らせるようにするために、勤務時間やタスク管理を共有したり、残業時間を可視化し、改善目標を設定したりする
  • ハラスメント対策窓口などを設置して、無理な長時間労働に声をあげる場を創る

ステップ3:制度や業務の見直し

業務や制度の問題を解決することで、長時間労働を効率的に削減できます。たとえば、次のことは業務の効率化を実現し、ひいては長時間労働の削減につながります。

  • 業務の優先順位を決めて、不必要な作業を削減する
  • 不要な会議や報告書作成などの業務がないかどうかを見直す
  • 繁忙期と閑散期の差が大きい場合には、フレックスタイム制度の導入を検討する
  • AIなどを導入して単純作業を自動化する
  • テレワークを導入している場合にはオンラインミーティングの回数を増やす、オフラインで話す機会を設けるなど、コミュニケーションを強化する

ステップ4:健康管理の強化

従業員の健康を守ることで、長時間労働による負の影響を未然に防ぎます。次のような取り組みが有効です。

  • 産業医や保健師を配置して、健康診断や面談、相談の場を提供する
  • ストレスチェックをメンタルヘルス対策に活用する
  • メンタルヘルス研修を実施する

企業ごとに抱えている事情は異なりますが、こうしたステップを重ねることで長時間労働の削減が実現しやすくなるでしょう。

長時間労働の原因と削減に取り組むメリットや具体策のまとめ

  • 長時間労働の主な原因は人手不足、マネジメント能力の欠如、企業文化、サービス残業の常態化、テレワークによるオン・オフの曖昧化など
  • 長時間労働削減に取り組むメリットとして、従業員の健康改善と生産性の向上、従業員満足度アップ、離職率の低下、人手不足の解消、企業イメージの向上が挙げられる
  • 長時間労働を削減するには、現状の把握、意識改革、制度や業務の見直し、健康管理の強化という4つのステップを経る

お伝えしたように、長時間労働は一時的な労働力の補填にしかなりません。常態化することで、従業員の健康を害し、離職者を増やし、企業イメージを悪化させます。そうならないためにも、長時間労働の削減にぜひ取り組んでみてください。

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