働きすぎで起こりやすい病気とは?長時間労働が心身に与える影響と企業が取るべき対策
2026.03.30
最近、体調不良を訴える社員が増えている―――こんなお悩みを抱えている経営者や人事・総務担当者の方は多いのではないでしょうか。そして、その背景に働きすぎが関係しているケースは少なくありません。
長時間労働は一時的な忙しさの問題ではなく、心身の不調や病気の発症リスクを高める要因です。本人が無理をしている自覚がないまま負担が蓄積し、気づいたときには深刻化していることもあります。
本記事では、働きすぎが続くことで体と心にどのような影響が生じるのかを整理し、企業として知っておきたい健康リスクと予防の考え方を解説します。
目次
働きすぎがなぜ健康障害を引き起こすのか
長時間労働が続くと、休息や睡眠のための時間が削られていきます。その状態が慢性化すると、日々の仕事で生じた肉体的な疲労が十分に回復しないまま蓄積していきます。
本来、睡眠は筋肉や内臓、脳の働きを回復させ、ホルモン分泌や免疫機能を整える重要な時間です。しかし睡眠不足が続くと、こうした身体の修復・調整機能が追いつかなくなり、全身のだるさや体力低下、疲れやすさが目立つようになります。その結果、以前と同じ業務量でも消耗が激しくなり、作業効率や集中力の低下が起こりやすくなります。
こうした回復不全の状態が続くと、体は十分に休息できないまま緊張状態が慢性化し、活動と休息の切り替えを担う自律神経やホルモンの働きにも偏りが生じやすくなります。すると、体と心の両面に次のような変化が現れやすくなります。
働きすぎの時に見られやすい不調のサイン
- 寝ても疲れが取れない
- 日中に強い眠気を感じる
- 集中力や判断力が低下する
- 気持ちに余裕がなくなり、些細なことでイライラしやすくなる
- 仕事への意欲が湧きにくくなる
- 以前は気にならなかったことが負担に感じられる
これらの変化は「一時的な疲れ」と受け止められがちですが、疲労が回復しない状態が続くことで、心身の不調や病気につながる土台が少しずつ作られていきます。その結果、さまざまな健康障害が引き起こされることがあります。
労働安全衛生総合研究(JNIOSH)の「長時間労働者の健康ガイド」によれば、過重労働によって引き起こされる健康障害は、大きく次の4つに整理されています。
- 脳・心臓疾患
- 精神障害・自殺
- その他の過労性健康障害
- ケガ・事故
それぞれについて詳しく解説します。
働きすぎで起こりうる健康障害(1)脳・心臓疾患
脳や心臓に関わる疾患は、働きすぎによる健康障害の中でも特に重篤化しやすく、突然発症するケースがあるため、注意が必要です。
長時間労働や慢性的な睡眠不足、強い緊張状態が続くことで、自律神経の乱れや血圧上昇などを通じて血圧や心拍、血管系に持続的な負荷がかかり、次のような病気のリスクが高まるとされています。
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 脳梗塞
- 脳出血
これらの疾患は突発的に起こるように見えることがありますが、背景には長期間にわたる過重労働や疲労の蓄積が存在しているケースが少なくありません。
実際に、時間外労働が週61時間以上(月換算で約80時間超)になると、週40時間以下の労働に比べて心筋梗塞の発症リスクが約1.9倍に高まるという報告もあります(労働安全衛生総合研究所「長時間労働者の健康ガイド」)。
長時間労働と脳・心臓疾患の関連は、労災として認定される事例があることからも、企業として無視できない健康リスクといえます。
働きすぎによる健康障害(2)メンタルヘルスの健康障害
働きすぎは、身体だけでなく心の健康にも大きな影響を与えます。長時間労働や強い業務負荷が続くと、精神的な余裕が失われ、次のような変化が現れやすくなります。
- 気分の落ち込みが続く
- 興味や意欲の低下
- 不安感や焦燥感が強くなる
- 眠れない、眠っても休まらない
こうした状態が続くと、うつ病や適応障害などの精神障害に発展することがあります。精神的不調は、仕事のパフォーマンス低下だけでなく、休職や離職、自殺リスクの上昇とも関係するため、企業にとっても重大な健康課題です。 『令和6年度 過労死等防止対策白書』では、精神障害や自殺に関する労災認定件数が継続的に報告されており、長時間労働や強い心理的負荷が背景にある事例も存在することが示されています。
働きすぎによる健康障害(3)その他の過労性健康障害
働きすぎによる影響は、脳や心臓、メンタルヘルスだけに現れるわけではありません。次のような過労性健康障害が起こりうることも指摘されています。
- 胃・十二指腸潰瘍
- 過敏性腸症候群などの胃腸障害
- 慢性的な腹痛・下痢・便秘
- 腰痛・肩こり・頭痛などの慢性痛
- 月経異常などの体調変化
これらは自律神経やホルモンバランスの乱れ、睡眠不足、ストレスの蓄積が関与し、長期化・慢性化しやすいのが特徴です。
本人も周囲も軽視しがちですが、生産性を低下させることにもつながり、企業が把握しておく必要のある健康障害といえます。
働きすぎによる健康障害(4)事故・ケガ
働きすぎによる影響は、病気だけでなく事故やケガのリスク増加という形でも現れます。
睡眠不足や疲労が蓄積すると、次のような変化が起こりやすくなります。
- 反応が遅れる
- 注意力が散漫になる
- 判断ミスが増える
その結果、業務中の転倒・機械操作ミス・交通事故・ヒヤリハットの増加につながることがあります。
実際に、長時間労働や睡眠不足のある労働者ほど、業務中のニアミスや労働災害を経験する割合が高いことが報告されています(「日本の労働者の全国代表サンプルを用いた産業現場における長時間労働、睡眠関連の問題、ヒヤリハット/傷害」)。
事故・ケガは個人の不注意として処理されがちですが、背景に慢性的な疲労や働きすぎが存在しているケースも多く、安全管理の観点からも重要な健康問題といえます。
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もこすく相談所に問い合わせる本人や周りが働きすぎを「まだ大丈夫」と思ってしまう理由
働きすぎで心身にダメージを受けた人に対して、「倒れるまでどうして気がつかないの?」と感じることがあるかもしれません。しかし、心身にダメージを受けていても働きすぎてしまうことは、それほど珍しいことではありません。その理由は次の通りです。
不調が少しずつ進行する
人によって異なりますが、働きすぎによる心身の不調は急激にではなく、少しずつ進行します。疲労や眠気、集中力の低下などが段階的に現れるため、本人も周囲も「大きな異変」として捉えにくくなるのです。
また、働きすぎの状態が続くと、本人の中で「疲れている状態が普通」という感覚になってしまい、不調を不調として認識しにくくなることがあります。その結果、「これくらいは普通」「忙しい時期だから仕方がない」と判断し、体や心からのサインに気が付かず、対応が後回しにしてしまいがちです。
周囲からは頑張っているようにしか見えないことがある
働きすぎている人ほど責任感が強く、表面上はこれまで通り業務をこなしているように見えるため、無理をしている状態が「頑張っている姿」として映ってしまうことが少なくありません。多少の疲労感があっても、「今は踏ん張りどころなんだろう」「一時的なもの」と受け止められ、健康リスクとして共有されないまま時間が過ぎてしまうケースもあります。
職場によっては働きすぎが当たり前な風潮がある
職場によっては長時間働くことや、高い業務負荷が「普通のこと」「そのくらいやって当たり前」と受け止められてしまうことがあります。周囲も同じように忙しく働いているため、働きすぎの状態そのものが問題として認識されにくく、声をかける必要性や対応のタイミングが後回しにされてしまうのです。
このように、本人の認識と周囲の見え方、そして職場の空気が重なることで、長時間労働や高い業務負荷が一定期間続いていても、「まだ大丈夫」と判断されやすい状況が生まれます。その結果、気づいたときには負担が大きくなっているという事態が起こりやすくなります。
働きすぎによる健康リスクに対して、企業が取るべき対策
働きすぎによる病気や健康障害を防ぐためには、問題が起きてから対応するのではなく、リスクが高まっている段階で気づき、対応する意識を持つことが重要です。
具体策としては以下のことが挙げられます。
労働時間・業務負荷を「健康指標」としてモニタリングする
働きすぎ対策は、「法令順守のための時間管理」で終わらせず、健康リスクを把握するための指標として活用することが重要です。 たとえば、次の点を定期的に確認することで、「体調不良が起こりやすい状態」に早く気づくことができます。
- 部署別・職種別に残業時間の偏りが出ていないか
- 特定の社員に業務が集中していないか
- 月単位ではなく、週単位・連続勤務日数で見て負荷が高くなっていないか
- 有給休暇や代休が取得できているか
数字を集計すること自体が目的ではなく、「負荷が構造的に高い部署・業務」を見つけ、業務分担や人員配置の見直しにつなげていくことが重要です。
「声かけ」や「面談」が遅れない仕組みをつくる
働きすぎによる不調は、本人が自ら訴えない限り、表に出にくいという特徴があります。そのため、企業側からの声かけや面談のタイミングが重要です。「困ったら従業員から相談してくるだろう」と本人任せにせず、早めに状況を確認することが重要です。
声掛けや面談のタイミングが遅れないようにするためには、「○○時間を超えた場合は上司や保健師による面談を行う」など、あらかじめ基準を作っておくことも有効です。労働安全衛生法では、ひと月当たりの時間外労働・休日労働が80時間を超え、疲労の蓄積がみられる労働者に対して、本人の希望に応じて産業医面談が実施されることが義務付けられています。また、対象となる労働者に対しては、事業者から面接指導を受けるよう勧奨することも求められています。さらに、この基準を満たない従業員に対しても声掛けやサポートをするしくみを設けておくと安心です。
不調の「芽」の段階で業務調整につなげる
面談や声かけの目的は、状態を聞くだけではありません。「この働き方が続いたら危ないかもしれない」という兆しが見えた段階で、業務の持ち方を調整できるかどうかが重要です。
たとえば、次のような働き方そのものに手を入れられる選択肢を、企業側が持っておくことが重要です。
- 一時的な業務量の削減
- 締切・目標設定の見直し
- 担当業務の分散・引き継ぎ
- 繁忙業務への応援配置
- 休暇取得の後押し
「本人が限界と言うまで待つ」のではなく、体調が崩れる前に負荷を下げられるかが、予防の分かれ目になります。
専門家に相談する
企業が注意すべきこととして、不調の原因を現場や本人だけで抱え込まないことが挙げられます。 産業医や保健師などの専門家に相談することで、次の点を客観的に整理することができます。
- 現在の状態が医学的に見てどうか
- 働き方として何がリスクになっているか
- 業務調整・休養・受診のどれが必要か
産業医や医療職が介入することで、本人にとっても企業にとっても「感覚」ではなく「根拠のある判断」ができるようになり、必要に応じて医療機関受診や就業上の配慮につなげることが可能になります。
まとめ:働きすぎを「個人の問題」にしないことが重要
働きすぎによる健康障害は、本人の体力や気持ちの問題として片づけられがちですが、多くの場合、業務量・体制・評価の仕組みと深く関係しています。そのため、働きすぎによる体調不良者が発生した場合は、個人の問題としてしまうのではなく、部署全体あるいは会社全体に問題がないか、見直すことが重要です。
働きすぎを防ぐことは、従業員の健康を守るだけでなく、企業の持続的な成長や職場全体の生産性を守ることにもつながります。長時間労働対策を「制度」や「数値管理」だけで終わらせず、人の健康を起点に見直すことが、これからの職場づくりに求められています。
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記事の要点
- 時間労働が続くと、睡眠不足や疲労回復不全が慢性化し、心身の調整機能が崩れることで、さまざまな健康障害が起こりやすくなる。
- 働きすぎによる健康障害には、脳・心臓疾患、精神障害・自殺、胃腸障害や慢性痛などの過労性健康障害、事故・けがといった複数のタイプがあり、命に関わるものから慢性的な不調まで幅広く存在する。
- これらの不調は少しずつ進行することが多く、本人も周囲も「まだ大丈夫」と思い込みやすいため、気づいたときには負担が大きくなっているケースが少なくない。
- 企業に求められるのは、問題が起きてから対応するのではなく、労働時間や業務負荷を健康リスクのサインとして捉え、早い段階で声かけ・面談・業務調整につなげることである。
- 働きすぎ対策は個人任せにせず、労働時間のモニタリング、仕組み化された面談、業務負荷の見直し、専門家の活用を通じて、組織として予防に取り組むことが重要である。
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