「長時間労働が続く社員に対して産業医面談は必要なのか」「何時間から対象になるのか」「面談では何をするのか」などの疑問を持っている総務・人事担当者の方は多いかもしれません。
長時間労働は、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調など深刻な健康障害につながるおそれがあり、一定の基準を超えた場合には医師による面接指導(産業医面談)の実施が法律で定められています。
この記事では、産業医面談の目的、対象者、内容、企業に求められる対応を整理して解説します。
目次
長時間労働の「産業医面談」とは何か?
長時間労働の産業医面談とは、正式には「長時間労働者に対する医師による面接指導」と呼ばれる制度です。労働安全衛生法に基づき、一定の時間を超えて時間外・休日労働を行った労働者に対して、医師が面談を行い、健康状態を確認し、必要な措置につなげることを目的としています。
この制度の最大の目的は、過労による健康障害を未然に防ぐことにあります。
長時間労働が続くと、疲労の蓄積や睡眠不足、自律神経の乱れなどが起こりやすくなり、脳・心臓疾患、うつ病などの精神障害のリスクが高まることが知られています。産業医面談は、こうした状態が悪化する前に、医師が医学的な視点から労働者の状態を把握し、働き方の調整や医療機関への受診などにつなげる役割を担っています。
重要なのは、産業医面談が「治療の場」ではないという点です。病気を診断したり治療したりすることが目的ではなく、あくまで職場における健康管理の一環として、健康状態や疲労の蓄積状況、睡眠や生活リズム、業務内容や負担の大きさなどを確認し、「このまま働き続けて問題ないか」「就業上の配慮が必要か」を評価する場になります。
面談の結果によって、産業医から企業に対して、「就業上の措置に関する意見」が示されるため、企業はこの意見を踏まえ、労働者の健康を守るための対応を検討することが求められます。
このような流れで行われる長時間労働の産業医面談は、「長時間労働 → 体調悪化 → 休職・労災」という流れを防ぐための予防的な制度と位置づけることができます。
長時間労働の産業医面談は誰が対象?対象者と実施基準
長時間労働に対する産業医面談は、「体調が悪そうだから念のため実施するもの」という位置づけではありません。法律上、一定の時間外・休日労働を超えた場合には、企業に実施義務が生じるケースがあります。時間外労働の観点から、産業医面談の対象になるケースを挙げて紹介します。
実施が義務付けられているケース
一般労働者の場合、時間外・休日労働が1か月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる場合で、本人から申し出があれば、企業は産業医面談を実施しなければいけません(※)。このときの「疲労の蓄積が認められるかどうか」は、本人への確認や問診票などをもとに判断されます。
企業は対象となる労働者に対し、産業医面談の実施を申し出る機会を与え、本人が希望した場合には、速やかに面談を実施しなければなりません。
また、よりリスクが高いケースとして、以下は「過労死ライン」とも呼ばれる水準であり、健康障害のリスクが著しく高い状態と考えられています。
・2~6か月平均で月80時間を超える場合
この水準に達している場合には、より厳重な健康管理と、面接指導の実施が求められます。
※研究開発業務従事者および高度プロフェッショナル制度適用者はこの限りではありません。
実施が推奨されるケース
時間外・休日労働が1か月45時間を超える状態が続いている場合や、業務内容の精神的負担が大きい場合、夜勤・交代勤務がある場合などは、80時間に満たなくても健康リスクが高まることがあります。このような場合、法律上の義務ラインに達していなくても、企業の判断で産業医面談を実施することが望ましいとされています。
その他、労働時間にかかわらず、本人から「面談を受けたい」と申し出があった場合には、産業医につなぐ体制を整えておくことが重要です。長時間労働による不調は、必ずしも時間数だけで判断できるものではなく、個人差や業務負荷の質も大きく影響します。
長時間労働の産業医面談で対象者を見逃さないために企業がすべきこと
産業医面談を適切に行うためには、まず正確な労働時間の把握が前提になります。サービス残業や自己申告漏れがあると、本来対象となるべき労働者を見逃してしまうおそれがあります。
あわせて、単に「時間数」だけを見るのではなく、長時間労働が常態化している部署はないか、特定の社員に業務が集中していないか、体調不良や欠勤・遅刻が増えていないか、といった視点で状況を確認し、必要に応じて早めに産業医につなぐことが、健康障害の予防につながります。
長時間労働の産業医面談では何をするのか?内容と基本的な流れ
産業医面談というと、「形式的な聞き取り」「とりあえず実施して終わり」というイメージを持たれがちですが、本来は、医師が医学的な視点から労働者の健康状態と就業の可否を評価する重要な場です。
ここでは、一般的な産業医面談で行われる内容と流れを整理します。
1.身体面の状態
動悸、息切れ、胸痛、頭痛、めまい、胃腸症状、強い疲労感など、過労と関連しやすい症状の有無を確認します。必要に応じて、健診結果や既往歴も踏まえながら評価が行われます。
2.睡眠・生活リズム
睡眠時間や入眠状況、途中覚醒の有無、休日の過ごし方などを確認し、疲労回復ができているかを見ます。長時間労働では睡眠不足が慢性化しているケースも多く、重要な確認項目です。
3.メンタルヘルスの状態
気分の落ち込み、不安感、意欲低下、集中力の低下などがないか、ストレスの感じ方や職場での困りごとも含めて確認します。
4.業務内容・負担の大きさ
労働時間だけでなく、業務の内容、責任の重さ、人員体制、裁量の有無などを踏まえ、負担の質についても評価されます。
長時間労働の産業医面談前に企業が行うこと
長時間労働対象者に行う産業医面談では、就業状況と健康状態の確認が非常に重要です。そのため、会社側から産業医に、事前に労働時間や勤務状況など情報提供をしておくと良いでしょう。その上で、本人の健康状態や就業について話を聴くことで、より的確な判断ができます。
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もこすく相談所に問い合わせる長時間労働の産業医面談後に企業が行うこと
産業医は、面談内容をもとに「現在の働き方を続けてよいか」「就業上の配慮が必要か」という観点で医学的な判断を行います。その結果に応じて、企業に対して就業上の措置に関する意見を述べます。
具体的には、次のような内容が示されることがあります。
・残業・深夜業務の制限
・業務内容の調整
・配置転換の検討
・医療機関の受診勧奨
・一定期間の就業制限・休業の検討
企業はこの意見を尊重し、労働者の健康を守る観点から、必要な対応を検討・実施する義務があります。重要なのは、「業務上難しいから対応できない」と一方的に判断するのではなく、どのような対応が可能かを具体的に検討し、その内容を本人にも丁寧に説明することです。
長時間労働の産業医面談をする際の注意点
産業医面談を意味のあるものにするために、企業側には注意しなければいけないことがあります。ここでは、注意点を紹介します。
個人情報・プライバシーへの配慮を徹底する
産業医面談で扱われる情報は、健康情報という極めて機微性の高い個人情報です。企業は、必要最小限の情報のみを共有するという原則を徹底する必要があります。
人事や上司に共有されるのは、「就業上の配慮の必要性」や「業務調整の方向性」などであり、診断名や詳細な症状を本人の同意なく共有することは適切ではありません。
本人が安心して面談を受けられるよう、誰に、どこまで情報が共有されるのか、またどのような目的で使われるのかなどを事前に説明しておくことも重要です。
必要に応じて継続的な対応をとる
長時間労働の問題は、1回の面談で解決することはほとんどありません。業務量や体制が変わらなければ、同じ状態が繰り返される可能性が高いためです。
そのため、産業医面談後は、就業上の措置が実際に守られているか、労働時間が改善しているか、体調に変化がないか、といった点を継続的に確認し、必要に応じて再面談やフォロー面談を行う体制を整えることが重要です。
社内だけで抱え込まないという視点を持つことも重要
長時間労働の背景には、人手不足や業務構造、職場風土など、個別の対応だけでは解決できない要因が存在することも少なくありません。根本的な解決のためには、長時間労働を会社全体の問題と捉え、改善に向けて具体的に取り組むことが必要ですが、人事や上司だけで対応し続けることが難しい場合には、産業医や保健師、外部の相談窓口など、社外のリソースを活用することも有効な選択肢の一つです。専門家が介入することで新たな視点が生まれ、社内だけでは難しい改善策にも取り組むことができる可能性があります。
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もこすく相談所に問い合わせるまとめ:長時間労働の産業医面談を「実効性ある仕組み」にするために
長時間労働の産業医面談は、一定の時間外・休日労働を超えた労働者に対して実施が求められる、重要な健康管理の仕組みです。単なる形式的な手続きではなく、医師が医学的な視点から健康状態を評価し、過労による健康障害を未然に防ぐことを目的としています。
産業医面談の実施基準を正しく理解し、対象者を見逃さないこと、面談で得られた意見を就業上の措置につなげること、そして面談後も継続的にフォローすることが、制度を機能させるうえで欠かせません。
一方で、長時間労働の問題は、人事・総務や現場だけで抱え込むほど複雑化しやすく、個人対応にとどまってしまうケースも少なくありません。産業医や保健師などの医療職が関わり、第三者の視点を入れることで、はじめて見えてくる課題もあります。
もこすく相談所では、従業員向けの相談窓口サービスや産業医のご紹介を通じて、長時間労働に悩む企業の健康管理体制づくりを支援しています。長時間労働による健康リスクを未然に防ぐために、気になることがあれば、ぜひ一度もこすく相談所にご相談ください。
記事の要点
- 長時間労働の産業医面談(医師による面接指導)は、一定の時間外・休日労働を超えた労働者に対して実施が求められる、過労による健康障害を防ぐための予防的な制度である。
- 時間外・休日労働が月80時間超かつ疲労の蓄積が認められる場合には実施義務があり、月100時間超または複数月平均80時間超は特にリスクが高い水準とされる。
- 産業医面談では、労働時間だけでなく、身体症状・睡眠状況・メンタルヘルス・業務負担などを総合的に確認し、就業継続の可否や配慮の必要性を医学的に評価する。
- 面談後、企業は産業医の意見を踏まえ、労働時間の短縮や業務調整などの就業上の措置を検討・実施し、継続的にフォローすることが重要である。
- 長時間労働の問題は社内だけで抱え込まず、産業医や外部相談窓口など医療職の視点を取り入れることが、健康リスクの早期対応につながる。
